打ち上げスクリーニング
スクリーニングとは、常駐宇宙物体(RSO)間の接近を予測する、接近評価(CA)プロセスのことです。
打ち上げスクリーニングとは、Satcat Launchが提供するスクリーニングの一種で、地球表面から目標軌道までの経路を飛行する打上げ機の軌道と、宇宙環境内の他の物体との接近を特定するサービスです。
軌道暦のデータ
軌道暦とは、ある物体の予測軌道の情報を時系列で記録したデータファイルです。軌道暦には、その物体の位置と速度に関する情報や、場合によっては不確実性データが含まれます。
スクリーニングでは、プライマリ物体の軌道暦と、セカンダリ物体(通常は軌道上の全RSOのカタログ)の軌道暦を比較します。打ち上げスクリーニングはSatcat Launchのサーバーで処理され、打ち上げプロバイダー独自の予測軌道歴や、第三者提供の軌道暦のカタログを使用するように設定することができます。
Form 22は、18/19 SDSが打ち上げスクリーニングを実施した際に記入する、アメリカ国防省へ提出するフォームのことです。
このドキュメンテーションでは、18/19 SDSのプロセスに精通しているユーザーのために、Form 22の項目に対応するパラメータが注記されている場合があります。(例:"Form 22: Item 4")
打ち上げ機の軌道暦
打ち上げ機の軌道歴((Form 22: Item 5))は、打ち上げ機が飛行する予定の軌道を記述したファイルです。Satcat Launchでの打ち上げスクリーニングは、ユーザーが1つ以上の軌道歴をアップロードすることから始まります。スクリーニングでセカンダリとして使用される打ち上げ機の軌道暦は、ファイルに含まれるノミナル打ち上げ時刻を考慮して処理されます。
Satcat Launchは、CALIPER Trajectory Covariance V2.0の打ち上げ軌道暦のファイル形式に対応しています。この形式を使用する際、各状態データレコードに速度項を含めることと、下三角の位置の共分散行列を指定することが求められます。
物体の半径(HBR)
物体の半径とは、プライマリ物体とセカンダリ物体の半径の和のことで、衝突確率(Pc)を計算する際に使用されます。 打ち上げ機の軌道暦をアップロードする際、その軌道暦のファイルに記述された物体のHBRを含める必要があります。
一部の接近評価システムでは、物体の大きさを距離で表すHBRではなく、面積で表されるレーダー反射断面積で示す場合があります。18/19 SDSが運用するForm 22打ち上げスクリーニングシステムがその一例です。
複数ステージ
ほとんどの打ち上げミッションは、ミッションの進行に伴い軌道が分岐する複数の分離ステージや物体で構成されています。しかし、Satcat Launchにアップロードされる各打ち上げエフェメリスは、一定のHBR値を持つ単一の離散的な物体の軌道を表す必要があります。ローンチ・ビークルの分離やフォールバック軌道(例:テンションロッドや再点火失敗計画)など、複数ステージを持つ打ち上げミッションでは、個々の軌道をそれぞれ別の打ち上げエフェメリスファイルとして提出する必要があります。
多くの打ち上げミッションは、衛星の切り離しを数段階に及んで行われ、ミッションの進行に伴って、分岐された衛星などの物体の軌道は分岐していきます。しかし、Satcat Launchにアップロードされる打ち上げ機の軌道暦は、一定のHBR値を持った、一つの物体の軌道を表すものでないといけません。 複数回に渡って分離される打ち上げミッション(例えば、打ち上げ機の分離、テンションロッドの分離、再点火失敗による代替軌道の使用など)の場合、各分離段階での打ち上げ機の軌道を軌道暦ファイルにして、それぞれ提出しなければなりません。
アップロードされた打ち上げ機の各軌道暦がプライマリとしてスクリーニングに追加されれば、Satcat Launchが同じ打ち上げオプションに対して、全ての分離段階での軌道をスクリーニングします。
カタログデータ
カタログとは、ある時間区分における複数の物体の軌道暦をまとめたものです。 スクリーニングを作成する際、カタログはセカンダリ物体のデータソースとしてのみ利用できます。
カタログタイプとは、その軌道暦が生成されたデータソースを示します。Satcat Launchでは、特別摂動(SP)カタログ(または高精度カタログ(HAC))に対応しています。
このカタログは、宇宙監視ネットワーク(SSN)を介して18 SDSによって管理されており、18/19 SDSが作成する、共分散行列のデータを含まないカタログです。そのため、SPカタログを用いて衝突確率を計算する場合、プライマリ物体の不確実性のデータのみで行われます。
プライマリとセカンダリの両方のデータに不確実性が含まれていない場合、接近事象における衝突確率は計算できません。
SPカタログを使用するには、組織が18/19 SDSとのデータ共有の契約を締結している必要があります。
カバレッジ
Satcat Launchを使用してスクリーニングを実行する場合、プライマリとセカンダリの軌道暦データが時間的に重なっていることが重要です。プライマリのカバレッジとは、プライマリの軌道暦がセカンダリの軌道暦と時間的に重なっている割合です。Satcat Launchは、プライマリごとのカバレッジに加え、スクリーニングに含まれる全てのプライマリの平均カバレッジも報告します。
Satcat Launchは、カバレッジを以下の3つのレベルで判定しています。
- ✅
FULL
:プライマリデータとセカンダリデータの時間が完全に重複している - ⚠️
PARTIAL
:プライマリデータとセカンダリデータの時間が部分的に重複している - ❌
NO_OVERLAP
:プライマリデータとセカンダリデータの時間が全く重複していない
Satcat Launchは、プライマリの軌道暦データの時間間隔がセカンダリデータと重複する割合を0から1の数値で表した、カバレッジ比率も報告します。
通常、運用目的で実行されるスクリーニングは、プライマリの軌道暦に含まれるすべてのデータポイントがスクリーニング中に考慮されるように、FULL
カバレッジで実行する必要があります。Satcat LaunchではデフォルトでFULL
カバレッジを保証しており、PARTIAL
またはNO_OVERLAP
カバレッジの場合は検証段階で拒否され、エラーメッセージが表示されます。
プライマリの打ち上げ時の軌道暦を評価する時刻は打ち上げウインドウによって定められます。そのため、スクリーニング作成時に設定された打ち上げウィンドウはプライマリのカバレッジに影響します。
スクリーニングがNO_OVERLAP
またはPARTIAL
カバレッジとなる場合、プライマリの軌道暦が、設定されたセカンダリデータの有効な時間外で生成されてしまっている可能性があります。
Strict Coverage(厳密なカバレッジ)
Satcat Launchには、Strict Coverageというパラメータがあり、デフォルトでオンになっています。この設定がオンになっていると、スクリーニングがPARTIAL
カバレッジであっても、検証を通過し、設定されたプライマリとセカンダリの軌道暦データの重複部分が考慮されます。一方、NO_OVERLAP
カバレッジの場合は、Strict Coverage設定に関わらず、検証段階で拒否されます。
Strict Coverage設定をオフにするのは、非常に長い軌道暦をアップロードする際には便利ですが、一般的な運用においては推奨しません。
打ち上げオプション
打ち上げオプションとは、打ち上げ機が打ち上がり、軌道へ向けてる。。上昇できる時刻の候補の事です。Satcat Launchは、各打ち上げオプションを起点とする軌道上での接近事象を特定することで、打ち上げ機にとってどの打ち上げオプションが重大なリスクとなるか、迅速に判断します。
Satcat Launchの打ち上げオプションは、打ち上げウィンドウによって定義され、次のような項目で表示されます。
- 開始時刻 - 最も早い打ち上げ時刻 (Form 22: Item 2)
- 終了時刻 - 最も遅い打ち上げ時刻 (Form 22: Item 2)
- 間隔 - 打ち上げオプション間の時間間隔 (Form 22: Item 4)
打ち上げオプションの例
- 開始時刻 2023-01-01 12:00:00
- 終了時刻 2023-01-01 16:00:00
- 間隔 10秒
この場合、以下の計算式を用いて、1441通りの打ち上げオプションが生成されます。
[(4 h x 3600 sec/h window) / 10 sec cadence] + 1 inclusive window endpoint = 1441
接近事象
接近事象とは、打ち上げ機と宇宙空間の他の物体が接近した状況のことです。特定のスクリーニングにおいては、プライマリとセカンダリの物体間の最接近距離が、スクリーニングで設定されたしきい値半径(threshold radius)を下回るたびに、接近事象が報告されます。
接近事象の結果には、以下の識別情報が含まれます:
- プライマリとセカンダリ物体の
NORAD_ID
- 最接近時刻 (TCA)
- 最接近距離
- 接近事象を引き起こす恐れのある衛星ミッションの打ち上げ時刻
さらに、プライマリとセカンダリ物体のデータの一方または両方に不確実性データが含まれている場合、衝突確率 (Pc) も報告されます。