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リスクメトリクス

接近事象を評価する際、不確実性下での衝突リスクを定量化するために、複数のメトリクスを用います。伝搬とともに測定共分散は拡大していくため、確実なGo/No Go判断を行うにはリスク評価が不可欠です。


最接近時刻 (TCA)

  • 定義: 2つのRSOが最小分離距離に達する瞬間。
  • 精度: ミリ秒単位の精度で報告され、タイムリーな衝突マヌーバ計画に不可欠です。

最接近距離 (MD)

TCAにおける相対的な位置関係を、RIC座標系でベクトルとして表したものです。ノミナル軌道(推定軌道)を元に計算されています。


測定共分散

軌道決定から得られる位置と速度の不確実性は、6x6の共分散行列として表されます。 この行列は、軌道の不確実性評価や、確立に基づくリスク評価の算出に使用されます。


マハラノビス距離

ノミナル最接近距離が不確実性分布の中心からどれだけ離れているかを計算します。

d_M = sqrt(Δrᵀ · Σ⁻¹ · Δr)

ここで:
- Δr は最接近ベクトル
- Σ は結合された3x3共分散行列

値が高いほど、わずかな偏差が衝突リスクを大幅に増加させる可能性があることを示します。


Tau Bound(タウ時間範囲)

タウ時間範囲は、TCA近傍の時間において、2つのRSOの位置不確実性の大きさが、それぞれの物体半径(HBR)の和と重なる範囲を示します。この時間間隔は、相対運動と共分散を近接時の二次元平面に投影し、統計的に信頼できるしきい値を適用することで導出されます。これにより、衝突リスクが無視できない状態となる時間帯を特定します。


衝突確率

衝突確率(Pc)は、2つの物体の半径(Hard Body Radius, HBR値)で定義される衝突体積内に、それぞれの不確実性分布が重なる確率を積分して求めた、衝突の可能性を示します。接近事象の幾何学的成分や利用可能なデータの内容に応じて、次のような異なる算出方法が用いられます。

Pcの算出方法

手法説明
Foster-1992 (2D)標準的な遭遇平面での評価方法。不確実性がガウス分布に従い、直線運動であり、オフセットの逸脱がないことを前提としています。
Hall (3D Nc)2Dの仮定が成り立たない場合に使用されます。軌道の曲率が大きい場合や相対速度が低い場合など、高精度な衝突確率が必要なケースに使用します。
SDMCTCA時点での赤道近点要素を用いたサンプリングによる、簡易力学モンテカルロ法です。二体ケプラー運動を前提として衝突確率を計算します。
Frisbee (Max Pc)片方の物体の共分散しか利用できない場合や、衝突確率が希薄領域(dilution region)にある場合に使用されます。
Frisbee Max Pc

Frisbee法は、完全な共分散データが利用できない場合に、最悪ケースの相対ジオメトリを仮定して上限値を推定します。


Pcの強化

Satcatは、接近事象が検出された際に、以下のリスクメトリクスを計算します。

  1. TCAとノミナル最接近距離を算出する
  2. NPD共分散を検証し、必要に応じて補正
  3. マハラノビス距離を計算する
  4. 最適なHBRを特定し、必要に応じてCDMを更新する
  5. Pcの算出方法を決定する:
    • 2Dジオメトリの仮定が成立する場合はFoster-1992を使用する
    • 2Dの仮定が破綻している場合は3D Nc [Hall]に切り替える
    • 3D Nc法が収束しない、または拡張違反を報告した場合はSDMCを適用する
    • 共分散が部分的な場合はFrisbee(Max Pc)による上限推定を使用する
  6. 希薄領域(Diluted Region)を検出し、該当する場合はMax Pcを報告する
  7. 新しいデータが取り込まれるたびにメトリクスを再計算する

衝突確率の希薄

不確実性が高い特定の接近事象では、ノミナル衝突確率の値が実際の衝突リスクを過小評価する可能性があります。この現象は、片方または両方の物体の共分散が大きいために、幾何的には接近しているにもかかわらず、計算上のPcが小さく見積もられてしまう時に発生します。Satcatはこのような事象を検出し、最悪のケースの発生確率を計算するために、共分散をスケーリングして算出した追加座標「最大Pc(Maximum Pc)」を表示します。 Satcatのサービスはこのようなシナリオを検出し、代替の指標としてMax Pcを提示します。

Pcの希薄についてさらに学ぶ


物体の半径 (HBR)

Satcatでの衝突確率の推定は、プライマリRSOとセカンダリRSOに使用されるHBRの値に大きく依存します。Satcatは、以下の信頼できるデータソースから、各物体に最適なHBR値を特定します。

  1. Satcat Operator: RSOのO/O軌道暦で手動で指定された値
  2. NASA CARA: NASAのConjunction Assessment Risk Analysisグループから提供された値
  3. Satcat DB: Satcatの内部データベースからの値
  4. From CDM: 関連するCDMで指定されたHBRを使用
  5. Fallback Space-Track OBJECT_TYPEロジック (例:ペイロードは5m)

選択されたHBRは、計算された衝突確率に直接影響するため、運用上の意思決定に用いるリスクしきい値を検証する際には、特に慎重に確認する必要があります。HBRの出典情報は接近事象ページの詳細セクションに表示され、Maneuver Designerのプロジェクトでも選択することができます。